包括遺贈と特定遺贈の違い
遺言により財産を遺贈する二つの方法
被相続人、つまり亡くなった方が、遺言により財産を贈与することを遺贈と言います。遺贈する相手は法定相続人に限られず、第三者や法人相手でもすることが可能です。
そしてこの遺贈は、包括遺贈と特定遺贈に分類されます。これらは「遺贈」という言葉でまとめて表現されることも多く混同しがちですが、法律上の扱いには大きな違いがあり、遺言を書いたり相続の手続きをしたりする上ではしっかりと区別することが重要となります。
包括遺贈とは、相続財産の割合を示して遺贈をすることです。例えば、「相続財産の半分を○○に遺贈する」や「1/4を○○に遺贈する」といった具合に遺言書に記載されている場合は包括遺贈です。
包括遺贈で重要なのは、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する(民法990条)という点です。包括受遺者とは、包括遺贈により財産を受け取る側のことを指しますが、この条文により、相続人と同じように扱われることとなります。
その結果、遺産分割協議にも参加できますが、マイナスの財産であってもその割合で承継してしまします。これを放棄するには、相続人と同様に、相続を知った時から3か月以内に家庭裁判書に放棄する旨を申述しなければなりません。
ただ、全ての制度において相続人として扱われるわけでもないので注意が必要です。例えば、包括受遺者が当該相続開始前に亡くなってしまった場合も、代襲相続は発生しません。
民法994条1項により、遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じないためです。
また、相続人以外の包括受遺者は、相続人に認められる登記の単独申請を行うことができません。これは、戸籍等の公文書で被相続人との関係を証明できないものに単独申請を認めてしまうと、制度を悪用されてしまう危険性があるためです。
これら例のように、民法990条だけを鵜呑みすることはできませんのでご注意ください。とにかくポイントは、包括遺贈では債務も承継されるということです。
特定遺贈とは、相続財産を具体的に特定して、遺贈することです。例えば、「甲土地を○○に遺贈する」「乙銀行の預金債権を○○に遺贈する」といった具合です。
なお、特定遺贈する際には、不動産を特定する場合には住所でなく地番や家屋番号を用いなければならない点など、一定の注意事項があります。どの相続財産を遺贈するのかという特定が明確でなければならないのです。
さて、特定遺贈では、特定された財産が遺贈されるに留まり、包括遺贈のように債務は承継されません。また、遺産分割協議にも参加することはできません。
特定遺贈では、財産を受けとる権利を放棄する場合でも、包括遺贈とは扱いが異なります。包括遺贈の場合、相続人と同じように扱われたのに対し、特定遺贈の場合は、相続の発生後、いつでも放棄することができます。
3か月の期間制限もなく、家庭裁判所への申述も必要ありませんので、たとえ口頭であっても放棄の効力は生じます。ただこの点だけは、後々になってなんかしらの問題が起きた際に放棄を証明するためにも、書面でするのが望ましいといえます。ちなみに、一部だけを放棄することも可能です。
なお、特定遺贈の場合では、このように受遺者に広い権利を認めているので、相続の早期解決のために、一定の利害関係人は受遺者に対しても、遺贈を承認するか放棄をするかを催告することができるという権利を認めています。
法律関係がいつまでも確定しないのは、これらの手続きを行う者に酷だからです。この催告をした場合、受遺者が相当の期間内に意思表示しなければ、遺贈を承認したものとみなされます。
・包括遺贈とは、承継される財産を割合で示した遺贈
⇔特定遺贈とは、財産を特定してなされる遺贈
・包括遺贈では、割合に従い債務も承継する
⇔特定がなければ債務は承継しない
・包括受遺者は、遺産分割協議に参加できる
⇔特定受遺者は、遺産分割協議に参加できない
・包括遺贈の放棄には家庭裁判所への申述が必要
⇔特定遺贈の放棄は家庭裁判所への申述は必要ない
以上の様に、包括遺贈は「相続」に近く、特定遺贈は「贈与」に近いものとなっています。遺言での表現方法によっては、包括遺贈か特定遺贈かを判断するのが困難な場合も考えら、問題となるケースもあるので注意が必要です。
そもそもの問題として、遺贈を行う際には遺留分といった相続人の権利を考慮し、争いごとに発展しないよう慎重に行うことが望ましいと言えますが、この点、包括遺贈の場合、遺産分割協議が行われる過程で、トラブルが発生してしまう可能性が少し大きいかもしれません。特に相続人以外へ包括遺贈する際は注意が必要と言えます。
遺贈は、包括遺贈と特定遺贈の違いをしっかりと区別・理解したうえで、それぞれの状況にあったものを行うようにしましょう。
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