遺贈と死因贈与の比較
相続開始により財産を贈与する二つの方法を比較解説します
遺贈と死因贈与は、いずれも人が死亡することをきっかけとして財産を相手にあげるという効果が発生する点で共通しています。
また、死因贈与に関する条文(民法第554条)には、性質に反しない限りは遺贈の規定を準用すると記載されており、この点でも非常に似ている制度と言えます。そのため、両者を混同して扱いがちですが、実際にはこれらに大きな違いがあり、これを行う際にはきちんと区別する必要があります。
一概にどちらの方がよいということはなく、最善の方法は状況により変わってきますので、きちんと違いを知り区別したうえで、都度最適な方法を選択するようにしましょう。
【遺贈とは】
遺贈とは、遺贈したい旨を遺言書に記載することによりすることができる、財産の処分方法です。遺言書に記載するという部分がポイントであり、生前に口頭のみで遺贈をしておくことはできません。遺贈を行う段階では相手方の同意は必要なく、受け取る側は遺贈の効力が発生した後に、これを受け取るか放棄するかという選択肢が生まれることになります。遺贈には包括遺贈と特定遺贈があり、これらにもまた違いはありますが、いずれにせよ、相続の一場面をイメージされるとよいでしょう。
【死因贈与とは】
死因贈与とは、贈与者の死亡を条件とした贈与契約のことです。ポイントは、あげる側の一方的な意思のみでは死因贈与は行うことができず、必ず受け取る側の受け取る旨の意思表示を要するという点です。
そもそも死因贈与とは、「大学に受かったら車をあげるよ」「子供が生まれたら使わなくなったベビー用品をあげるよ」といった条件付き贈与と同一線上の話であり、遺贈の様な遺言で行わなければならないといった厳密なルールはありません。
では、以下で両者の違いについて比べていきたいと思います。
◇遺贈は「単独行為」であるのに対して死因贈与は「契約」
少し専門的な話になってしまいますが、法律的な効果を発生させるために必要な「法律行為」は様々な種類に分類されます。上記の「単独行為」と「契約」はそれぞれ、それらの中の一つです。簡単に述べると、単独行為は行為者が一人で勝手に行うことができるもの、契約は二人以上の意思が合致することによってできるものです。
遺贈は単独行為であるため、遺言に書くことで相手の意思に関わらず勝手に行うことができます(受け取るかどうかは別の話ですが)。また、通常の遺言を訂正する方法により勝手に撤回することもできます。
一方、死因贈与は契約であるため、相手の意思を通じて贈与を行わなければなりません。撤回については、遺贈の撤回に関する規定を準用する(=勝手に撤回できる)考え方を基本としつつも、負担付き死因贈与という受け取る側に一定の義務がある場合におけるその義務の一部でも履行されたケースでは撤回は許されないという考え方もあり、遺贈とは若干の違いがあります。
◇遺贈は書面(=遺言書)が必須だが、死因贈与は口頭でもできる
遺贈を行うには、その旨を遺言書に記載しなければならないので、遺言書が必須になりますが、死因贈与は相手の同意さえあれば書面は必要なく、たとえ口頭であってもすることができます。
余談とはなりますが、そもそも有効な「契約」を行うために、一部の例外(保証契約など)を除いては書面で行うことが必須ではなく、意思表示のみでこれを行うことができるのです。大事な契約の場面で契約書を作成するのは、効力を発生させるためではなく、その後のトラブル防止のため側面が大きいといえます。死因贈与に関しても同様で、トラブルを回避したり訴訟になった際の証拠にしたりする為にも、書面で行うことが望ましいとは言えます。
◇受け取る側の拒否の方法の違い
遺贈の場合、遺贈する行為自体には受け取る側の意思が必要ない代わりに、遺贈者の死亡後、受け取る側が受け入れるか否かを選択することができます。遺贈が包括遺贈だった場合は、通常の相続放棄と同じように、相続があったことを知った時から3か月以内に遺贈された権利を放棄する旨を家庭裁判所に申述することによって、特定遺贈だった場合はいつでも放棄する意思表示をすることによって、放棄を行います。
一方死因贈与の場合、遺贈の放棄に関する条文は準用されず、受け取る側が任意に贈与を放棄することができません。
以上の違いを踏まえた上で、それぞれにどのようなメリットがあり、どちらの制度を用いればよいのか考えてみましょう。
まず、遺贈の場合、必ず遺言書を作成しなければならないという手間こそありますが、作成段階では相手方の同意は必要なく撤回も自由であるため、死因贈与に比べ柔軟な対応が可能であるというメリットがあります。また、処分の旨が遺言書に記載されていることで、死因贈与に比べると相続人をはじめとした利害関係人を納得させやすいかもしれません。ただ、その柔軟性の裏返しで、必ず財産を受け取ってもらえるわけではない点に注意が必要です。
死因贈与の場合、口頭であっても効力は生じるという手軽さはあるかもしれませんが、安全性の面から、実質的にそのメリットは形骸化されているといってもよいでしょう。他に、契約段階から相手方の同意を要するため遺贈に比べると受け取ってもらう可能性が高いかもしれません。
デメリットとしては、財産に不動産が含まれている場合、名義を移すために必要な登録免許税が高くなってしまう可能性があることが挙げられます。これは、相続人に対しての不動産の名義移転が「相続」や「遺贈」を原因とする(つまり相続の一場面である)場合は不動産価格の4/1000というサービス価格で行うことができるのであるのに対し、「贈与(死因贈与の場合贈与として扱われてしまう)」の場合には20/1000という通常の割合になってしまいます。この点、相続人に死因贈与する際は注意すべきです。
以上が、遺贈と死因贈与の比較になります。冒頭で述べたように一概にどちらのほうが良いと断言することはできませんので、状況に応じて都合の良い方を行うようにしましょう。
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