紛失した権利証を他人に悪用される危険性とは
勝手に名義変更されたり、不動産を担保にお金を借りられたりしてしまうのか
「火事の時は現金よりも権利証を持って逃げろ。」なんて、昔の人はよく言ったものですが、実際に権利証はどれほど大切なものなんでしょうか?
権利証を紛失してしまったら家を売却できない?権利証を拾った人が消費者金融に行って勝手に自分の家を担保に入れてお金を借りてしまう?
今回は権利証を紛失してしまった場合にどのような危険性があってどのように対応すればいいのかを解説していきます。
このようなご質問を受けることがありますが結論から申し上げると登記済権利証も登記識別情報も再発行することはできません。「法務局にいくと新しい権利証がもらえる」といった嘘の情報を伝えてくる人がいますがそれはデタラメです。権利証は一度発行されたらそれが世界で唯一のものとなり、新たなものを発行してくれることはありません。
法務局で取得する登記簿謄本のことを権利証と勘違いされている方が結構いらっしゃるようですので、それで権利証を法務局で再発行してくれるものだと誤った認識をしているのかもしれません。
何にせよ、権利証は再発行されるものではありませんので、紛失してしまったらそのものを探すしかないのです。権利証を紛失してしまった場合にどのような方法で対応すればいいのかはこちらの記事に詳しく書いてありますのでここでは割愛します。(≫権利証を紛失・なくしてしまった場合の対応)
ドラマや映画を見ていると権利証を悪い奴らに奪い取られてしまうシーンがでてきますが、我々専門家からみると意味のわからない話です。そもそも権利証だけあったとしても勝手に不動産の名義変更をしたり売却してお金に換えたりは登記手続き上できないからです。権利証と本人の印鑑証明書(発行から3ヶ月以内のもの)と実印の3つが揃わないと登記名義を移すことができません。
また、仮に上記全てを何らかの手段で入手された第三者に名義変更をされたとしても、やはり実体上の所有権自体を奪われるものではありません。なぜなら、登記はあくまでも対抗要件にすぎないからです。
対抗要件とは、読んで字のごとく第三者に権利を対抗するための要件であって、自分が所有者であることを法的に主張することができるということです。つまり、単に登記名義人だからといって所有権を有しているわけではなく、第三者に自分の所有権を主張するために登記をするという関係になっています。
よって、仮に権利証を悪用されて登記名義を移されたような場合であっても、その登記が無効であることを証明することができれば、裁判を経てその所有権移転登記を抹消することができるのです。とはいえ、裁判になれば時間もお金もかかりますので、そうならないように普段から権利証を大切に保管し、もし紛失してしまったことがわかれば印鑑証明書と実印を厳重に保管する等によって対策しておくべきでしょう。
勝手に登記名義を移されないようにするために「不正登記防止申出」という制度が存在します。これは申し出から3ヶ月以内に対象の不動産に何らかの登記申請があった場合に、申請があったことを申出人に通知するといった制度です。この申し出をしておけば、自分が何も登記申請をしていないにも関わらず、この通知が届いたことで勝手に誰かが登記をしようとしていることに気が付くことができるわけです。しかし、この制度の問題点として、3ヶ月しか申し出が有効にならないため、いつまでも不安を解消することができないことです。制度的に問題が残されているものですのであまり実用性はないのかもしれません。
また、紛失したものが登記識別情報である場合には、「登記識別情報の失効申出」という制度を利用することができます。登記識別情報とは、12桁の英数字で作られたパスワードですから、このパスワードの効力を失効させ、使えなくしてしまう制度です。この失効申出には、期間的な制限はありませんので、もし登記識別情報をなくして不安でしょうがないのであれば法務局にご相談してみてください。
こちらのページを見て「権利証を失くしたんですがどうすればいいですか?」といったお電話を数多く頂いておりますが、それぞれの事案や状況によって対応方法が異なり、その場では返答しかねますので、そのような質問のお電話についてはご遠慮いただきますようお願い申し上げます。
※ 不動産を売却する際に権利証を紛失されているのであれば仲介業者にその旨をお話していただき、担当司法書士からの指示に従うようにしてください。