認知症の相続人がいる場合の相続手続き
認知症の相続人がいる場合に注意すべきことを網羅的に解説
超高齢会社会を迎えた日本において、今後の認知症患者の数は増加し続けるものと考えられます。この認知症の問題は、相続手続きと密接に関わってきますので、相続手続きを進めていくうえで、決して無視をすることができません。
なぜなら、相続手続きを進めていく中で『遺産分割協議』を行うことが一般的かと思いますが、認知症等によって判断能力が不十分となり、自らの意思表示を行うことができない相続人は、その遺産分割協議を行うことができないからです。(遺産分割協議は法律行為であって、意思能力を欠いたものは法律行為を行うことができません)
_認知症の相続人がいて遺産分割協議ができないと何が困る?
認知症の相続人ががいることにより遺産分割をすることができない場合、大きく分けて2つの問題点が生じます。
(1)相続税申告で有利な選択ができない
相続税申告が必要な場合には、通常は税理士が最も相続税がかからない有利な遺産分割協議内容を決めたうえで(小規模宅地の特例など)、遺産分割を成立させ税務署へ申告します。そもそも認知症の相続人がいる場合には、遺産分割をすることができませんので、法定相続分での申告をするしかありません。
(2)不動産名義が相続人共有となってしまう
不動産所有者が共有となってしまうことは通常いい状態とはいえませんので、不動産については相続人のうちの誰かが単独で取得することが一般的です。しかし、誰かの単独取得するためには、法務局に対して相続人全員が署名捺印(実印)をした遺産分割協議書を提出しなければいけないため、そもそも認知症の相続人がいる場合には、法定相続分での割合で共有となる登記申請しかすることができません。
それ以外にも相続手続き上で問題となることがありますが、大きく問題となるのはこの2つと考えられます。
認知症の相続人がいる場合に遺産分割ができないという問題を説明しましたが、それ以外にも金融機関の相続手続き上で問題が生じる可能性があります。
金融機関は、預金名義人が亡くなった事実を知ったと同時に、故人名義の預金口座を凍結してしまいます。一旦凍結された預金口座は、適切な相続手続きを行わない以上、解約に応じてくれません。金融機関は、相続人全員が参加をした遺産分割協議書を求めてくることになりますが、相続人が認知症の場合には、そもそも遺産分割ができませんので提出をすることができません。
間違えて相続人の中に認知症の人がいる話をしてしまったら、金融機関は成年後見制度の話をしてくることになるはずです(仮に認知症のことを言わなかったとしても高齢の相続人がいる場合に電話や窓口での本人確認を求めてくる可能性がある)。
たしかに成年後見の制度を使うことで、法的に全く問題のない相続手続きが進められることとなりますが、成年後見の制度自体が万能なものではなく、今後も面倒な家庭裁判所との年次報告が必要となりますので、成年後見を立てることを避けたいと考える方が沢山いらっしゃることかと思います。
そもそも成年後見というものは、認知症等によって判断能力を失い意思表示を行うことができなくなった人の財産を守るための制度です。つまり、相続手続きで遺産分割をしたい他の相続人のための制度ではありません。
ここを勘違いされている方が沢山いらっしゃることが非常に残念に思います。
たしかに何かの目的のために成年後見の必要性を知って本人のために後見人を立てるのであれば、それはそれで問題はないと思います。しかし、「遺産分割をしたいから」とか「不動産を処分したいから」といった本人のためとは思えないことのために後見人を立てることは、私は反対です。
理由は、本人以外のために成年後見制度を使うとなると、その目的を達した時に、きちんとした財産管理がなされないことが十分ありえるからです。
一度、成年後見人となってしまうと、被後見人が亡くなるまで財産を管理し続けなければいけません。
本人の財産管理以外の目的で、成年後見人となった方に、一生涯その本人の財産を守り、毎年面倒な家庭裁判所への報告を行い続ける覚悟はありますか?私はそうは思えません。遺産分割など目的が達した時に、成年後見人となったことに後悔を感じてしまうのではないでしょうか。
勘違いされてしまわないように付け足しておくと、私は成年後見制度自体に否定的なわけではありません。本人の財産管理を行う一環として遺産分割をするのであればそれは問題ないと思いますが、遺産分割をしたがために、安易に成年後見制度を使うことは本人のためにならないので反対ということです。
_第三者(専門家)後見人がついてしまう可能性
成年後見の申立てを行う際にどういった理由で後見制度を利用するのか答えなければいけません(遺産分割など)。この場合、遺産分割を目的とした場合に、候補者として身近な親族が認められず、司法書士や弁護士といった第三者後見人が選任されてしまう危険性があります。
たとえば、父が死亡して母親が認知症のケースで長男が後見人候補者となるような成年後見の申立をしたとして検討してみましょう。
この場合、仮に長男が後見人と認められたとしても、遺産分割においては母親と長男の間での利益相反関係となってしまいますので、母親の代理人として遺産分割協議に参加をすることができません。別途、母親について家庭裁判所への特別代理人の申立てが必要となります。
家庭裁判所は、遺産分割において利益相反関係となるような人をわざわざ成年後見人と認めるでしょうか?
家庭裁判所からすれば、最初から遺産分割に全く関係のない第三者を後見人とした方が手間が省けるし合理的であると考えるでしょう。
つまり、遺産分割を目的とした成年後見の申立てでは、相続に影響のあるような親族ではなく、第三者の専門家後見人となる可能性が高いため、親族以外の専門家に今後本人の財産を管理されてしまうリスクを理解しなければいけません。
_専門家後見人が選任された場合に生涯続く報酬負担の問題
万が一司法書士や弁護士といった専門家が後見人となった場合には、生涯後見人の報酬が発生することを頭に入れておかなければいけません。
この後見人の報酬についてですが、本人の財産や本人の状況によって異なってきますが、おおよそ財産の少ない方で月額3~5万円、財産が5000万円を超えると5~8万円程度と考えられます。≫横浜家庭裁判所『成年後見人等の報酬額のめやす』を参照
たとえば月額5万円の後見人報酬が発生するとなると、年間60万円です。10年間で600万円、20年間で1000万円以上の報酬を支払い続けなければいけません。
今後、本人の生活費・療養費・ホーム入居費等がかかり続けることを考えると決して安い金額ではありませんので、もし万が一親族以外の専門家後見人が選ばれてしまった場合には、この毎月の費用負担についても考えていかなければいけません。
私としては、ご高齢で認知症を患ってしまった場合には、今後色々なお金がかかりますし、毎月の費用負担はなるべく小さくして、その人が亡くなるまで生活に困らないようにしてあげるべきだと考えますので、専門家後見人はなるべく避けるべきだと思います。
遺産分割をすることのメリットよりも、第三者後見人が選任されてしまうデメリットの方が大きいのであれば、私は法定相続でもいいのではないかと思います。
たしかに法定相続を選択してしまうと相続税を減らすような遺産分割協議を行うことができないかもしれません。しかし、生涯続く成年後見人の報酬は発生しませんし、今後家庭裁判所から監督を受けることもありません。
それであれば、法定相続を選ぶメリットは大いにあると思いますがいかがでしょうか?
_認知症の相続人がいる場合の相続にお困りなら当事務所へご相談を!
司法書士や弁護士は、自らが成年後見人に就任をしたいため、あたかも遺産分割しか方法がないような記述をしがちですが、実際はそうではありません。
私は、遺産分割と法定相続の場合のメリットデメリットを知ったうえであれば遺産分割を選ばず法定相続を選んでもいいのではないかと考えています。
もし認知症の相続人がいることで相続手続きの進め方に悩まれているのであれば一度当事務所までご相談ください。
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