相続人は、被相続人が遺言で分割することを禁止した場合を除いて、他の共同相続人同士で協議の上、遺産分割を行うことができます。
仮に遺産分割協議をしない場合、それぞれの相続人に相続財産が法定相続分で帰属することになります。この法定相続分による共有割合や、帰属先を変えるために、遺産分割協議を行うことができるのです。
とはいうものの、遺産分割協議は、相続人のうち一人でも欠けている状態で行うと無効となってしまうため、有効に行うためには相続人全員の協力が必要になります。
そもそも遺産分割をすることは義務ではありません。
遺産分割の財産を分配するというその性質上、感情的な対立も起こりやすく、これらを理由として協議することを億劫に思う方もいらっしゃるかもしれません。
いざ協議をしてみても、話が全くまとまらずに暗礁に乗り上げてしまうケースも考えられます。
その様な場合、もし仮に遺産分割をしないまま(もしくは遺産分割協議をまとめないまま)放置するとどのようなデメリットがあるのでしょうか。
本記事では、遺産分割をせずに放置した場合のデメリットについて解説します。
[デメリット]
(1)相続税申告時に未分割での申告となる
(2)不動産の名義が法定相続分の共有になり有効活用がしにくい
(3)銀行手続きができない可能性がある
では、以下でそれぞれの詳細について見ていきましょう。
遺産分割そのものは義務ではなく、期限もありません。
しかしながら、その他の相続手続きの期限の関係で、迅速にこれを行うのが望ましい場合があります。
その一つの目安が、相続税の申告期限(相続を知った日の翌日から10か月以内)です。最初に、通常の相続税の計算の流れを見てみましょう。
まず、相続税を計算する際、まず被相続人の相続財産の総額を算出します。
次に、この相続財産の総額から債務や葬式費用を差し引いて遺産総額を計算します。
この遺産総額から、基礎控除額(3000万円+法定相続人の数×600万)を差し引き、この結果で課税の要否を判断します。その後、課税が必要であれば各相続人の税額を計算していくことになります。
さて、本来であれば、この流れの中で一定の特例(配偶者控除や小規模宅地の特例など)を用いることで税額を低く抑えることができるのですが、いかんせん、これらの特例はその対象の財産の帰属先や相続分が決まった後でしか適用できません。
そのため、遺産分割協議が整っていない段階では、「とりあえず法定相続分で相続したもの」と仮定して計算した額で申告し、金銭による一括納付を行わなければなりません。
この申告の際に「遺産分割協議を3年以内に終わらせる」旨を届け出ることで、遺産分割協議を行った後に、特例等を適用した正式な額を計算しなおして多く収めた分は還付してもらうことができるのですが、一時的とはいえ、多めの税額を負担する相続人がでてきてしまいます。
この状態を相続人間で調整しようとするとこれまた手間になるでしょう。
10か月という期間は、この間に葬儀などの他の手続きを行わなければならないことを考えると、非常に短いものですが、この間に遺産分割協議は終わらせておきたいものです。
「共有」については、民法において定められており、共有者ができることは、一人で物を所有している場合に比べて制限されています。
これは相続により共有となった場合も同様です。
各相続人がそれぞれ行うことができる「保存行為」はさておき、問題となるのが「共有物の管理」と「共有物の変更」です。
前者は、例えば共有物を第三者に賃貸するような場合がこれにあたりますが、各共有者の持ち分の価格に従い、その過半数で決しなければなりません。
後者は、例えば農地を宅地に変更する場合がこれにあたりますが、これは共有者全員の同意のもと行わなければなりません。
また、売却(=処分)を行うにもしても、自己の権利である「共有持分」しか自由に処分することができず、上記の様に権利が制限される共有持分には当然に値はつきません。
とどのつまり、遺産分割協議を行わずに法定相続分で各相続人の共有状態となると、その相続財産本来の価値を活用できない状態となってしまうのです。兄弟相続や数次相続が絡み、疎遠な者同士の共有状態となってしてしまうと、目も当てられません。
共有状態の問題は不動産に限ったことではありませんが、不動産は動産に比べて不都合が大きくなりがちですので、特に遺産分割協議を行って共有を避けるべきだと言えます。
また、不動産の共有状態については相続登記の問題も絡んできます。例え暗黙の了解で一人の所有になると認められているような状態であっても、遺産分割協議書でそれを証明しない限りは法定相続分による登記しか行うことができません。
登記を行わなければ、対外的な信用力を得ることができないため、売却などの処分をすることは難しいでしょう。
また、登記されていない状況が何代も放置されることによって、後々になって問題をどうにかしようと思い立ったとしても、解決が非常に困難となってしまいます。
冒頭で述べたように、遺産分割協議は相続人全員で行わなければならないからです。遺産分割協議を行う権利を持つ相続人が亡くなると、その権利はその相続人に移ります。
これが何代も続けば、相続関係者が膨大となり、しかもその関係が希薄、となっては遺産分割について話し合うことはほぼ不可能でしょう。
結局のところ、遺産分割協議で所有者を一人と定めることはできず、細かくなった法定相続分での登記しか行えなくなります。
相続財産の中に銀行預金がある場合、その預金債権は法定相続分に従ってそれぞれの相続人が得ることになりますが、だからと言って銀行がその相続分にしたがって払い戻しをしてくれるとは限りません。
遺産分割協議が成立していないと銀行が払い戻しに応じてくれない可能性があります。
そして、そのまま預金債権を放置した場合、消滅時効にかかってしまい、銀行がこの消滅時効を援用することで、預金債権が消滅してしまうことすら、理論上は考えられます。
一般論で言えば、銀行が預金債権について消滅時効を援用することは考えづらいのですが、だからといって油断してこれを放置してしまうのは危険でしょう。
本記事では、デメリットのみに着目して解説しましたが、これは、遺産分割協議をしないことによるメリットはないといっても過言ではないためです。
一代の相続で遺産分割を行わなかっただけですらこれだけのデメリットがあるので、この放置された状態がさらに何代も続いたときの大変さは想像に難くありません。
冒頭で述べたように、話し合いがまとまらず遺産分割が進まないこともあるかもしれませんが、なるべく話し合いがまとまるようにお互いが譲歩する気持ちをもって遺産分割に臨み、それぞれの状況が勘案された遺産分けを行うように心がけましょう。
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