相続人が相続する方法としては、相続人が民法に定める法定相続分通りに相続財産を相続する方法と、相続人全員の協議により相続内容を決め相続をする遺産分割による方法と、被相続人が作成した遺言の内容に従い相続する方法があります。
ここで1点疑問が生じます。それは、遺言の内容と相続人の意思が矛盾した場合はどうなるのか。
例えば、遺言の内容が「長男にすべて相続させる」となっていた場合に相続人間では「次男にすべて相続させたい」と思っているような場合です。
以上のような場合、遺言者である被相続人の意思と相続人の意思が真っ向から対立しています。
本来であれば被相続人の意思である遺言を優先させることが大前提ではありますが、現実は異なっています。この遺言と遺産分割のどちらを優先すべきかについては、ケースにより結果が異なるのでケースごとに説明していきたいと思います。
本来被相続人の意思である遺言の内容に相続人が従うことが基本ですが、相続人全員が遺言に納得していない場合で相続人全員が、遺産分割の内容に納得しているのであれば、遺言の内容に反した遺産分割は認められます。
「長男にすべて相続させる」という遺言があった場合なら、「次男がすべて相続する」という遺産分割も相続人全員が納得しているのであるなら可能となります。
遺言に反していてもです。
但し、遺言の内容が「友人であるに遺贈(相続)する」となっていたような場合には、相続人全員が遺産分割に納得していても、それだけでは遺言を無視して遺産分割を優先させることはできません。
つまり相続人以外の者が遺言により相続財産を取得する場合は、相続人だけの納得では足りず、遺言で相続財産を取得する受遺者も納得(更に遺贈の放棄)している必要があります。
相続人全員が納得しており、加えて相続人以外で遺言により財産を取得する受遺者がいれば、その者が納得(更に遺贈の放棄)している場合は、相続人は遺言に従わずに遺産分割を行うことができるとされています。
遺言で遺言執行者が選任されている場合があります。では、遺言で遺言執行者が選任されている場合はどうなるのか。
遺言執行者とは、遺言の内容を執行する者のこと言い、遺言執行者には相続人も選任することができます。
遺言執行者に相続人が選任されていれば、相続人全員の納得があれば遺産分割による相続は可能とされています(相続人全員=遺言執行者の納得であるため)。
但し、前述したように、相続人以外の受遺者がいる場合は、同様にその受遺者が納得(遺贈の放棄)している必要があります。
しかし、遺言執行者が相続人でなかった場合は、遺産分割ができるかどうかは遺言執行者次第と言えます。
遺言執行者を遺言の内容を忠実に執行、完遂する義務がありますので、受遺者がおらず、相続人全員が納得していたとしても遺言執行者が応じなければ遺言が優先されることもあります。遺言執行者はあくまでの遺言の内容を完遂させる義務を負うからです。
<民法第1012条>
1.遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2.第644条から第647条まで及び第650条の規定は、遺言執行者について準用する。
なお、相続人の中の一部だけが遺言の内容に反対している場合もありますが、そういった場合は遺言の内容と異なる遺産分割をすることができるのでしょうか。
前述したとおり、遺言の内容に従わずに遺産分割を行うには相続人全員が納得している必要があるので、相続人1人でも納得していない場合は、遺産分割を行うことはできません。遺産分割は法定相続人全員でしなければ無効となりますから、当然の帰結といえます。
ちなみに、例え遺言によりすべてを相続することになった相続人が遺産分割に納得していたとしても同様です。
遺言者は、遺言により遺産分割を、期間を定めて禁止することができます。定めることができる期間については5年を超えない期間になります。
この遺産分割の禁止が遺言の内容となっている場合は、相続人は禁止期間内については遺産分割が行えません。相続人全員が納得していても同様です。
<民法第908条>
被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
このように、遺言を作成していても相続人全員が納得することにより遺言ではなく遺産分割が行われてしまうことがあります。
遺産分割が行われるという事は、相続が開始しており遺言者は亡くなっています。遺言が効力を開始するときには相続人である家族に対して遺言者は意思を伝えることはできません。
そういった理由から遺言者の意思を相続に反映させるのであれば、生前から相続について相続人になる家族と十分に話合っておくことも必要なのではないでしょうか。
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