一般的には遺産分割を行う方法で財産や権利の分配が行われますが、相続分を譲渡したり放棄したりすることで、自己の権利を処分することも可能です。
これらはつまり、相続開始から遺産分割を行うまでの間に得た自己の相続分を処分するということです。ここでいう相続分とは、プラスの財産だけでなくマイナスの財産を含めた包括的な相続財産全体に対して各相続人が有する相続分の割合のことであって、個別の財産や権利についての持分ではありません。
まず、相続分の譲渡とは、その名の通り、相続分を譲渡することです。譲渡する相手方は他の相続人には限らず、相続人以外の第三者に対しても行うことができます。
譲渡が他の相続人になされた場合は、受け取った相続人の相続分が単純に増加することになります。
相続分が変更されるだけですので、特段難しく考える必要はありません。
一方、相続人以外の者に対してなされた場合は、部外者が相続手続きに関わってくるという点で、少し複雑な権利関係になります。
すなわち、譲渡を受けた者は、相続人でないのにも関わらず相続人として振る舞うことができるようになり、遺産分割協議にも参加することができるようになるのです。
ただ、第三者が遺産分割に関わることはただでさえ面倒なものをさらに複雑化してしまいますので、譲渡を行った相続人以外の相続人は、その譲渡された相続分を、一か月以内に相当な価額と費用でもって取り戻すことができます。
なお、この取戻権は各相続人が単独で行使することができるとされています。少し難しい話となりますが、この取戻権が発生するのは相続分の譲渡が行われた場合、つまり包括的な相続分が処分された場合に限られ、特定の財産の共有持分などが第三者に処分された場合においては、他の相続人はこれを取り戻すことはできません。
なお、相続分の譲渡は相続人の地位が譲渡されることに他なりませんので、譲渡受けた者は、プラスの財産のみならずマイナスの財産も承継することになります。(ただこの点、マイナスの財産について、債権者との関係では、その債権者の承諾を得なければ、当然には承継されません。承諾があるまで、譲受人と譲渡人の債務が併存するものとされています。)
つぎに、相続分の放棄についてです。
これは、相続財産の中でも、プラス財産のみに対する権利を放棄することを指します。この点、初めから相続人で無かったものとされる相続の放棄(家庭裁判所への申述による)と区別する必要があります。マイナスの財産について義務を免れるか否かが、相続「分」の放棄と相続の放棄との違いです。
さて、相続分の放棄によって放棄された権利は、他の相続人に、各相続分の割合に応じて帰属するものとされています。例えば、配偶者Aと子BおよびCが相続人であり、そのうちのCが相続分の放棄をした場合、Cが有していた1/4のプラスの相続分が、AとBに、相続分の割合(1/2:1/4=2:1)に従って帰属します。既述の通り、Cはマイナスの財産について負担を免れることはできません。
あまりメリットがないような相続分の放棄ですが、プラスの財産を巡るいざこざに関わりたくないとき、被相続人と関係が遠いために相続財産の取得を希望しないときなどに、債務は負担する形で(=相続人としての責任を背負う形で、他の相続人との関係で公平な形で)関係から離脱する方法の一つとして考えられます。
・権利を第三者に渡せるか否か
相続人以外のものに対して相続分を処分することのできる相続分の譲渡に対して、相続分の放棄は必ず、他の相続人に権利が帰属することになります。
・マイナスの財産を承継するか否か
相続人の地位が譲渡される相続分の譲渡では、譲受人がマイナスの財産をも承継することになりますが、相続分の放棄では、マイナスの財産について関係が変わることはありません。
ただこの点、相続分の譲渡においても、債権者との関係では、承諾なくして当然に債務を免れることができないことは既述の通りです。譲り渡す人間と受け取る人間で資力に差があることが通常でしょうから、債権者の立場からすれば当然のことと言えます。(ちなみに、債権者の承諾は、相続放棄の要件ではありません。)
なお、相続分の譲渡・相続分の放棄のいずれも、特段の要式は求められておらず、意思表示のみで行うことができる点では共通しています。とはいえ、あまり一般的な方法でありませんので、これらを検討されている方は一度専門家へご相談されることをおすすめします。
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