相続において、遺言の有無は、遺産を巡る利害関係やその後の相続手続きに大きな影響を与える問題です。
被相続人の生前に遺言について聞いておくことができれば一番良いのですが、相続自体が触れづらい話題ということもあり、たとえ遺言書を作成してあったとしてもそのことについて一切教えてくれないというケースも少なくありません。
そのような場合、残された相続人は、相続手続きを進める前提として遺言の有無を調査する必要があります。その調査にあたっては、方法が、残された遺言が公正証書遺言の場合と自筆証書遺言をはじめとしたその他の遺言の場合で大きく異なります。
本記事では、それぞれのケースについて遺言の存在を調査する方法を解説します。
公正証書遺言は、昭和64年1月1日以後に作成されたものであれば、氏名、生年月日、作成日といった情報がデータベース化されています。
そのため、日本公証人連合会の遺言書検索システムというものを用いて情報を検索することで、遺言書の有無を調査することができます。
このシステムは、日本全国の公証役場が対象として検索することができますので、最寄りの公証役場に後記の必要書類を持参することで、どの公証役場で作成されたものであろうと、その存在の有無を調査することが可能です。
この検索システムは、遺言者の死後、相続人や遺言執行者などの利害関係者が利用することができます。遺言者が生きている間は、本人しか検索することができませんのでご注意ください。
【公正証書遺言の調査に必要となる書類】
◇検索をする権利を持つ人(相続人等)本人が行く場合
①遺言者の死亡を証明する書類
→遺言者が亡くなり、利害関係人が検索できる状況であることを証明するために必要となります。被相続人の戸籍謄本や死亡診断書がこれにあたります。
②利害関係を証明する書類
→検索をする権利を持っている人の存在を証明するために必要となります。請求者が、遺言者の相続人であることを確認できる戸籍謄本などがこれにあたります。
③請求人の身分を証明する書類
→請求者が利害関係人本人であることを証明するために必要となります。請求者の印鑑証明書(作成後3ヶ月以内のもの)と実印のセットやパスポート、運転免許証等の顔写真付き身分証明書と認印のセット等がこれにあたります。
◇請求者の代理人が行く場合
上記の①~③に加えて、以下の書類が必要です。(③の実印は④の代理人への委任状に押し、持参する必要はありません。)
④相続人から代理人への委任状
→代理したことの証明になります。委任する人の実印を押しましょう。
⑤代理人の本人確認資料
→代理を受けた本人であることの証明になります。代理人の免許証等がこれにあたります。
以上を簡単にまとめると、相続人自らが検索人に行く場合、基本的には被相続人の戸籍謄本(①)、相続人の戸籍謄本(②)、相続人の印鑑証明書(③)、相続人の実印(③)を用意し、
これを代理人に頼む場合は、被相続人の戸籍謄本(①)、相続人の戸籍謄本(②)、相続人の印鑑証明書(③)、代理の委任状(④)、代理人の免許証等(⑤)を用意したうえで、
さて、この調査では、遺言書の有無とその保管されている公証役場を調べることができますが、公正証書遺言が存在することが判明した場合でも、遺言の中身までは教えてもらえません。この場合は、実際に保管されている公証人役場に直接赴き、遺言書の交付をしてもらうことになります。
自筆証書遺言をはじめとした公正証書遺言以外の遺言については、遺言書の保管が遺言者に委ねられていることもあり、上記のようなシステムは存在しません。
そのため、これらの有無の調査は、実際に遺言者が保管していそうな場所をしらみつぶしに調べていくほかありません。
遺言者の自宅以外の場所ですと、親友に預けていたり、弁護士や司法書士、銀行の貸金庫に預けてあるケースも考えられます。
ただ、銀行の貸金庫に預けてある場合ですと、各銀行の規定の相続手続きの手順に従う必要があり、これに時間がかかってしまいますので、まずは自宅内の考え得る場所を探索し、そこで見つからなければ、とりあえずは遺言書がないものという前提のもと相続手続きを進めていかざるを得なくなります。
さて、公正証書遺言以外の遺言については、こうした調査によって見つかった後も「検認」という手続きを経る必要があります。
検認とは、遺言書の内容を明確にした上で遺言書が偽造されることを防止するための手続であり、見つかった遺言書を家庭裁判所に提出しなければなりません。
さらに封印のある遺言書については,開封自体を家庭裁判所で行わなければなりません。
検認の手続きを怠ることで、遺言書が無効になることはありませんが、過料の制裁を科されてしまう可能性があります(民法第1005条)。自筆証書遺言は、検認手続きを念頭に置いて、発見した勢いでそのまま開封してしまわないように気を付けましょう。
なお、検認手続きは司法書士が代理で行うことができます。ご自身でやることが難しい場合は、相続を専門とする司法書士に依頼するとよいでしょう。
・公正証書遺言
…必要書類を用意したうえで最寄りの公証役場に行き、遺言書検索システムを利用する
・自筆証書遺言(その他の遺言)
…被相続人の机、タンスの中、金庫、仏壇、神棚など、保管されていそうな場所を探す
これらの方法を駆使することで、被相続人の遺言の有無を調査することになります。ご覧いただいたように、遺言の有無の調査については、合理的で一回的な解決方法がないのが現状です。
スムーズな相続を実現するためにも、相続の発生前から相続についての話し合いを持ち、情報を共有するなどの対策をしておくのが一番と言えるでしょう。
相続専門の当事務所では、生前対策としての遺言書作成についてのご相談も随時受け付けております。
自分自身で気軽に書くことができる自筆証書遺言では、遺言自体が無効になったり死後にトラブルが顕在化することも珍しくありません。
国家資格者が関与のもと作成した法律上問題のない公正証書遺言を作成するようにしましょう。
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