相続不動産を売却するケースとして、相続により被相続人の不動産を相続したものの実際には住まないために売却する場合や、相続財産を遺産分割協議により分割する場合にその後の権利や管理などが複雑になるために不動産を金銭にしてから分割する、分割の手段(換価分割)としての不動産売却があります。
ここで気を付けたいのが相続不動産を売却する場合も不動産の譲渡による所得には譲渡税がかかります。
これは相続税を納税した、しないに関わらず発生しますので注意が必要です。譲渡税は不動産の保有期間によって税率がかわります。
その他特別控除など譲渡税について解説していきます。
まず不動産を売却する場合、その不動産を所有する期間が長いほど税率が低くなります。
所有期間が譲渡した年の1月1日時点で5年より短い場合は短期譲渡所得とされ、所有期間が譲渡した年の1月1日時点で5年を超える場合は長期譲渡所得とされます。
なお、建物と土地は別個に所有期間を計算しますので土地が長期譲渡所得で建物が短期譲渡所得になる場合もありますので注意してください。
この所有期間の起算点は相続の場合、原則被相続人が所有を開始した時点となります。(相続開始時ではない)
税率は長期譲渡所得の場合15%+住民税5%ととなり、これに更に平成49年までは復興特別所得税2.1%がかかります。短期譲渡所得の場合は30%+住民税9%ととなり長期譲渡所得と同様に復興特別所得税が2.1%更にかかります。
|
所有期間 |
所得税 |
住民税 |
長期譲渡所得 |
5年を超える |
15% |
5% |
短期譲渡所得 |
5年以下 |
30% |
9% |
|
復興特別所得税 |
長期譲渡所得 |
上記の15%の所得税率で計算した額の2.1% |
短期譲渡所得 |
上記の30%の所得税率で計算した額の2.1% |
実際に納税する額はこの譲渡所得税の税率をもとに以下の計算方法で計算します。
譲渡した価格(売却価格)からその不動産を取得した時にようした費用(買い取った時の価格)と譲渡費用(売却にかかった費用)を引いた金額が課税譲渡所得金額となります。
この課税譲渡所得金額に先ほどの短期譲渡所得税率又は長期譲渡所得の税率で計算すると納税する譲渡所得の金額が出ます。
|
計算方法 |
1課税譲渡所得金の額 |
譲渡価格―(取得費+譲渡費用)=課税譲渡所得金額 *更に特別控除に該当する場合もあります |
2譲渡所得税の納付額 |
課税譲渡所得金×(15%+5%(又は30%+9%))=納付額 *更に復興特別所得税として課税譲渡所得金×15%(又は30%)=の2.1%の金額がかかります |
表の1、2の順で計算します。
具体的な例で説明すると、長期譲渡所得の場合、5000万円で購入した土地があり、売却価格が6500万円で譲渡費用に500万円かかった場合のケースですと
1 6500万円−(5000万円+500万円)=1000万円(課税譲渡所得金)
2 1000万円×(15%+5%)=200万円が譲渡所得税の納税額(住民税を含む)となり、復興特別所得税として別に
1000万円×15%=150万円×2.1%=3万1500円が加算されます。
譲渡所得税の計算方法のところで出てきた取得費や譲渡費用にはどのようなものなのか。そもそもこの理解がなければ計算はできませんのでここで解説していきます。
不動産の購入費用は当然のことながら取得費にあたります。それ以外にも取得費と認められるものがいくつかあります。
<取得費に該当するもの>
1.土地や建物を購入した時に支払った、不動産の登録免許税や不動産取得税、特別土地保有税(取得分)、印紙税。なお、業務に使用する不動産の場合は取得費に該当しません。
2.購入した不動産に賃借人がおり、その賃借人を立ち退かせるために支払った費用
3.土地の造成のために支払った費用(埋め立て、地ならし土盛りなど)
4.土地の取得の際に支払った測量費
5.不動産の所有権を確保するために支払った訴訟費用
6.土地建物を購入し当初から土地の利用が目的であった場合の建物の取り壊しの費用
7.不動産を購入するために借り入れた資金の利子のうち、不動産を実際に使用開始する日までの期間に対応する部分の利子
8.既に締結済の契約を解除し、他の物件を取得した場合の契約の違約金
なお、不動産を購入した代金は当然に取得費に該当しますが、建物については
相続した不動産がとても古いもので購入した代金等が分からない場合もあります。といいますか、私の経験上ではむしろ相続不動産の購入時の書類がきちんと残っている方がごく希で、過去の相談者の方のお話の中で全て取ってあって書類を提出できると言われたことはいまだかつてありません。
親が不動産を購入したのなんてかなりの昔で、さらに本人が買ったわけではないのだから購入時の書類を見つけることは難しいのが当然です。(権利証は残ってるはずですので、その近辺の封筒を探してみたら見つかる場合もあります)
こういった取得費がわからない時、取得費は売却価格の5%とすることができます。できるという表現が正しいかはわかりませんが、とにかく5%として計算することとなります。(実際の取得費が5%に達していなかったとしても5%となります。)
私から言わせていただきますと5%ってかなり低いです。
たとえば50年前に親が2000万円で買った土地が現在の売却価格が3000万円であったとします。この場合のみなし取得費は150万円です。実際に2000万円で購入したにも関わらず、たったの150万円で計算することになってしまいます。これだとかなりの譲渡益が出たと判断されてしまうため、不動産購入時の書類は是が非でも見つけてください。
みなし取得費が5%であることについて、私としては非常におかしいと考えていますが決まっている税法なので仕方ないことなのかもしれません。特に相続の場合、購入時の書類なんて見つかりませんから、なんとかしてほしいものですね。
取得費と同様に売却価格から引くことのできる費用として譲渡費用というものがあります。譲渡費用とは不動産を売却する時にかかった費用をいいます。譲渡費用に該当するものとして以下のものが該当します。
1.不動産を売却するために支払った不動産会社への仲介手数料
2.支払った印紙税の中で売り主が負担したもの
3.賃貸している建物を売却するために賃借人に支払う立退料
4.土地を売却するために、その土地の上に立つ建物を取り壊した場合の取り壊し費用及び、その建物の損失額
5.既に締結済みの売買契約を解約し、更に有利な契約をした場合の契約の解約によって発生した違約金
6.借地権を売るために地主の承諾をもらった場合の名義書換料など
なお、建物の修繕費や固定資産税など、その不動産の維持や管理にかかった費用は譲渡費用になりません。
ある一定の要件を満たせば、譲渡所得税も一定額まで控除を受けることが出来ます。特別控除を受ける譲渡の種類及び控除額は次のとおりです。
1 公共事業などのために土地建物を売却した場合 5000万円
2 マイホームを売却した場合 3000万円
3 特定土地区画整理事業などのために売却した場合 2000万円
4 特定住宅地造成などの事業のために売却した場合 1500万円
5 平成21・22年に取得した国内の土地を譲渡した場合 1000万円
6 農地保有の合理化などのために土地を売却した場合 800万円
以上が譲渡所得税の特別控除の種類と控除額です。また相続不動産が居住用不動産であり10年を超えて所有している場合は「長期譲渡所得の課税の特例」を一定の要件のもとうけることもできます。また、先ほど説明した取得費に相続税額を一定額含ませることができる「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」もあります。
「長期譲渡所得の課税の特例」及び「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」の要件は以下のとおりです。
|
特例を受けるための要件 |
長期譲渡所得の課税の特例 |
・日本国内にある自分が住んでいる家屋を売るか、家屋とともにその敷地を売ること ・売った年の1月1日において所有期間が10年を超えていること ・売った年の前年及びその前年にこの特例を受けていないこと ・家屋や敷地についてマイホームの買換えや交換の特例など他の特例を受けていないこと なお、マイホームを売却した時の特別控除の特例は重ねて受けることができます。 ・売主、買主の関係が親子、夫婦等、特別な間柄でない事 |
相続財産を譲渡した場合の取得費の特例 |
・相続、遺贈により財産を取得した者であること。 ・その財産を取得した者に相続税が課税されていること。 ・その財産を相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過するまでに譲渡していること |
相続不動産のことをもっと知りたい方はこちらへ ≫相続お役立ち情報総まとめQ&A
ここまで説明してきた税はあくまで相続不動産を売却した場合の譲渡所得税です。これ以外にも相続には相続を受けるときに課される相続税があります。
相続税においても譲渡所得税のように特別控除がありますので、それらを上手く活用することによって相続における税金対策をしていくのが良いのではないでしょうか。どのようなものに税が課されるのか、また税の計算方法や控除の種類、要件など、税金は非常に分かりにくい部分もありますので、相続税がかかる場合については税理士と連携が取れた下記プランをお勧めします。
≫相続税申告と遺産承継業務のサポートパック