相続税の改正により平成27年1月1日以降の相続において、様々な変化が発生します。主なものとしては、やはり基礎控除額の減額です。この基礎控除額の減額により相続税の課される相続が非常に増加しています。他にも相続人とって不利益な変更として相続税の税率変更などもありました。逆に相続人の利益になる変更としては、未成年者控除や障害者控除、小規模宅地等の特例の変更が挙げられます。
上記のような変更(特に基礎控除額の減額)は様々なメディアで特集されていましたので、多くの方が知っている相続税の改正内容ではないでしょうか。
今回はこれらの改正内容の解説ではなく、贈与税に関しての相続時精算課税の制度について解説していきたいと思います。
この制度は、まだあまり活用されていなく、またこの制度を知らない方も多いと思いますので今回は相続時精算課税の制度について、その内容やメリットデメリットなどを簡単に解説していきます。
本来贈与をすると贈与税が掛かります(年間110万円までは非課税)。被相続人が、自身が亡くなる前に前もって子供に贈与をする場合は贈与税を支払わなくてはいけません。そして贈与をした場合は翌年の3月15日までに申告、納税が必要です。これが一般的な贈与税であり、このように贈与があった翌年の3月15日に申告、納税することを暦年課税と言います。
相続時精算課税制度とは、この暦年課税の方法によらない贈与税の制度の事をいいます。
相続時精算課税制度の場合は一定額までの贈与の場合、贈与税が掛からない事になります(厳密に言えば贈与時に)。全く贈与税が掛からないわけではなく、被相続人が亡くなって相続が開始した時に贈与税が掛からなった額は相続税として納税することになります。
<相続時精算課税制度の対象となる一定額>
相続時精算課税制度を利用すると、2500万円の贈与までは贈与税が掛からなくなり、相続時に相続税として納税となります。2500万円を超えて贈与をした場合は、その贈与額に20%の税率が課されます。超えた場合に贈与税が課されますが通常の贈与税の税率より安くなります。また、この時に納税した贈与税は相続時に納税する相続税から納税分控除することが出来ます。
例えば贈与税500万納税していた場合は、相続税が1000万円だった場合1000万円から500万円分控除することが出来ます。
<相続時精算課税制度の利用ができる者>
贈与をする側は60歳以上の両親または祖父母、受贈者は贈与者の推定相続人である20歳以上の子共か孫となります。なお、当該制度の利用は贈与者で各々利用でき、母親は相続時精算課税制度で父親は暦年課税の贈与とすることも可能です。
<相続時精算課税制度から暦年課税への変更>
一度相続時精算課税制度を選択すると、暦年課税に変更することは出来無くなります。つまり、一度相続時精算課税制度にしてしまうと贈与税の控除である年間110万円まで非課税は受けられなくなりますので注意が必要です。
<相続時精算課税制度の計算方法>
相続時精算課税制度を利用し、相続が起きますと贈与を含めた相続税の計算が必要になります。この場合、課税相続財産(債務や相続の基礎控除額を控除した後)に贈与した財産を加えた合計額に相続税率を掛けます。その結果出た金額から、すでに支払った贈与税額(2500万円を超えた贈与)を控除し、計算された額を相続税として納税することになります。
(課税相続財産+贈与した財産)×相続税率-贈与税納税額=実際相続税額 |
<相続時精算課税制度のメリット>
(1)通常の贈与より税率が低い・・・
相続時精算課税制度を利用することにより2500万円まで贈与税が非課税になり、2500万円までは贈与税をより安い相続税率で計算が出来る。また2500万円を超えた部分に関しても税率が20%と通常の贈与税率より低い。更に、この納税した贈与税は相続税から控除が出来る。
(2)被相続人が生きているうちに出来る・・・
贈与の場合は被相続人の生前に行えるので相続の一貫として相続時精算課税制度を活用するなら、被相続人の意思が反映しやすい。遺言等では効力発生が被相続人の死後となり、被相続人が財産移転の結果を確認できない。
(3)収益のある財産を早期に相続人に移転できる・・・
マンションなど賃貸物件のような収益性のある財産の場合、相続時精算課税制度を選択し、贈与を使えば受贈者である未来の相続人が相続より前の早いうちから収益を得ることが出来る。
(4)価値が上がる可能性の高い財産なら節税になる・・・
相続時精算課税制度の税計算の評価は贈与時の評価となるので、価値が上がる可能性の高い財産であるなら、贈与時の安い評価で税の計算ができ相続時に相続として移転するより税金が安くなる可能性がある。
<相続時精算課税制度のデメリット>
(1)暦年課税のメリットを受けられない・・・
先ほども触れましたが、相続時精算課税制度を一度でも選択してしまうと暦年課税に変更はできないので、年間110万円までの非課税枠を使う事が出来なくなる。
(2)相続税が課されるリスクがあがる・・・
相続税改正まえの相続の基礎控除額なら、かなり有用な制度であったが改正により基礎控除額が減額になり課税相続財産が大きくなる可能性があり、加えて贈与した財産も加わると相続税が高額になる可能性がある。
(3)相続税対策に有用な制度が使えないことも・・・
相続時精算課税制度を利用し、土地を贈与した場合、小規模宅地等の特例が使えなくなってしまう。小規模宅地等の特例とは一定の要件を満たすと相続税の評価額が80%減額になる制度で、生活用住居を相続する場合には有用な制度ですが、これが使えなくなってしまいます。
(4)物納ができなくなる・・・
通常の相続税の場合、納税に代えて相続財産自体を物納することが可能ですが、相続時精算課税制度の場合は贈与を受けた財産で物納することは出来なくなります。
(5)登録免許税が高額になる・・・
不動産の場合、相続を原因として相続人に移転登記をする場合登録免許税は0.4%なのに対して、贈与による移転登記の場合は相続時精算課税制度を利用しても2.0%と高額になってしまいます。
以上が、相続時精算課税制度のメリット、デメリットとなります。
ここまで相続時精算課税制度について説明してきましたが、当該制度は非常に分かりづらく、得なのか損なのかもはっきりしません。
そのためかあまり使われていない制度となってしまっています。しかし、相続時精算課税制度は使う意図や、使われる方の財産の内容によっては非常に有用な相続税対策の方法と言えます。特に相続税が確実にかかってしまうような方の場合は、贈与税の税率が安くなりますし、使い方によっては、かなりの節税につながる場合もありますので見逃せません。
但し先ほども話した通り、相続時精算課税制度は非常に分かりづらいものと言えますので、相続税や贈与税で悩まれた場合は一度専門家に相談してみる事を強くお勧めします。
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